事例・コラム
Column
屋内外を貫通するデザインの塗装:天井や梁の色味を統一するために

図書館や交流センターなどの公共建築において、ガラスのカーテンウォールを挟んで、天井のルーバーや梁が屋内外を貫通して伸びていくデザインは、空間に広がりと連続性を与える人気の設計手法です。
しかし、ここで設計者を悩ませるのが【屋外と屋内で、求められる塗料の性能が違う】という問題です。
・屋外:耐候性、防腐・防カビ性能が必要(WP:木材保護塗料)
・屋内:安全性、低臭、F☆☆☆☆が必要(ST:ピグメントステイン)
性能だけで選んで「屋外はA社のWP、屋内はB社のST」としてしまうと、同じ「ダークブラウン」指定でも、色味や濡れ色(オイル感)、経年変化の仕方が異なり、ガラス越しに色が繋がらないという失敗が起こります。
本コラムでは、この意匠を成功させるための2つのアプローチと、採用時の注意点、特記仕様書の記載例について解説します。
目次
1. 【WP軸】水性バトンプラスを活用する案
一つ目は、安全性の高いWP(木材保護塗料)を選定し、「屋内外、まったく同じ塗料で塗ってしまう」という最も確実な方法です。
通常、屋外用塗料は溶剤臭やホルムアルデヒド放散等級(F☆☆☆☆)の観点から屋内使用が制限されますが、大谷塗料の【水性バトンプラス】は、以下の特性により「屋内外兼用」が認められる場合があります。
・安全性データ(F☆☆☆☆同等のホルムアルデヒド放散量試験成績書あり)
・食品衛生法適合(乾燥した塗面は食品衛生法・食品、添加物等の規格基準 に適合)
※食品用器具及び容器包装(直接食品と接触する箇所)へのご使用は上記規格基準適合のみでは出来ません。 食品用途へのご検討の際は必ず当社までお問い合わせください)
・低臭設計(水性のため臭いが極めて少ない)
【重要】F☆☆☆☆に関する注意点
水性バトンプラスを内装で使用する際、設計・監理者が必ず押さえておくべき点があります。
屋外用塗料であるWP適合塗料は、ホルムアルデヒド自主管理登録制度を運用している日本塗料工業会が登録対象外と定めているため、F☆☆☆☆登録が出来ません。
本製品はその代わり、第三者機関による試験を実施し、【F☆☆☆☆と同等のホルムアルデヒド放散量であることを証明する試験成績書】を用意しています。
公共建築で使用する際は、この成績書を提出することで「告示対象外(規制対象外)」または「相当品」として承認を得る手続きが必要です。
2. 【ST軸】VATON-FXを活用する案
二つ目は、屋内用として評価の高い自然系木部塗料【VATON-FX】シリーズを軸にする方法です。
VATONシリーズは、屋外用の「VATONプラス」と屋内用の「VATON-FX」で顔料設計を共通化しているため、内外で製品を使い分けても色ブレが起きにくいのが特徴です。(なお、先ほど紹介した「水性バトンプラス」も、屋内用の「水性VATON-FX」と同じ顔料設計です)
意匠優先で「屋外もST(VATON-FX)」にする場合のリスク
デザインの統一感を最優先し、屋外の軒天なども含めて全エリアを【VATON-FX(ST仕様)】で仕上げるケースもありますが、公共建築においては以下のリスクを許容する必要があります。
- カビの発生リスク
ST塗料はWP塗料と異なり、防カビなどの薬剤が含まれません。例えば山間部の施設など、湿気が多い環境では、屋外軒裏などにカビが発生しやすくなります。 - 早期の「灰色化(グレイイング)」
ST仕様(拭き取り仕上げ等)は、WP仕様(2回塗り等)に比べて塗布量が少なくなる傾向があります。保護成分が少ないため、紫外線による劣化(木材の灰色化)がWPよりも早く進行します。
メンテナンス周期の分離推奨
この仕様を採用する場合、以前のコラム(LCCの考え方)で解説した通り、屋内外でメンテナンス周期を変える計画が必須です。
「屋内は10年維持できるが、屋外のST部分は2~3年で塗り替えが必要になる」という点を、維持管理計画に盛り込んでおくことが推奨されます。
3. 塗装事例:たかもり子ども図書クラブ
熊本県阿蘇郡高森町にある「たかもり子ども図書クラブ」(設計:株式会社セルアーキテクト)は、VATON-FXによって屋内外の連続性を実現した好例です。

デザインの意図:「多様性」と「統一感」
この図書館の内装は、「コ」の字型のパーツを様々に組み合わせることで、ベンチになったり本棚になったりと「いろいろな形の居場所」を作り出しており、多様性の具現化をテーマとしています。
形状にあえてバラつきを持たせているからこそ、空間全体を引き締めるために「素材と色」には統一感が求められました。

実際の塗装仕様
基材には地元の杉(細幅の柾目)を使用し、屋内の天井・本棚から屋外の軒裏に至るまで、全て【VATON-FX ナチュラルブラウン】の「2回塗り拭き取り」仕上げで統一されています。
※本物件は公共建築物ではないため、厳密なWP/STの区分に縛られず、意匠性を最優先した仕様が採用されています。
ガラス越しに連続する天井と、空間全体を包み込む杉の温かみのある色が、パーツごとの多様な形状を優しくまとめ上げ、一体感のある空間を生み出しています。
本案件のその他の写真はこちら「【採用事例】VATON-FX(たかもり子ども図書クラブ)」
4. 失敗しないための「特記仕様書」記載例
設計者の意図を施工者に正しく伝えるために、特記仕様書には以下の文言を追加することを推奨します。
【記載例1:水性バトンプラス(屋内外共用)の場合】
特記事項:屋内外木部塗装の色合わせについて
・屋内外の天井・梁において、意匠の連続性を確保するため、同一の塗料を使用すること。
・使用塗料は、屋外における耐候性(WP規格相当)を有し、かつ屋内における安全性(食品衛生法適合および、ホルムアルデヒド放散量試験成績書等の提出によりF☆☆☆☆同等の性能が証明できるもの)を満たすものとする。
・(参考製品:大谷塗料 水性バトンプラス)
【記載例2:VATONシリーズ(色味統一)の場合】
特記事項:屋内外木部塗装の色合わせについて
・屋内木部(ST)および屋外木部(WP)の塗料は、ガラス面を介した色調および質感を統一するため、同一メーカーの同一顔料シリーズ製品を選定すること。
・屋外にST仕様(屋内用塗料)を採用する場合は、耐候性および防カビ性能について製造所の見解を確認し、維持管理計画に反映させること。
・色番号および希釈率についても、屋内外で差が生じないよう、見本板を作成し監督職員の承諾を受けること。
・(参考製品:大谷塗料 VATON-FXとVATONプラス、水性VATON-FXと水性バトンプラス)
まとめ:リスクを知った上で選ぶ「デザイン」
屋内外の連続性は美しいデザインですが、そこには「耐候性」と「安全性」という相反する要素が存在します。
大谷塗料では、「水性バトンプラスで性能ごと統一する」あるいは「VATONシリーズで色味を揃える」という複数の選択肢を用意し、設計者のイメージを具現化するサポートを行っています。
参考文献・情報源
【文献1】 T. D. Bal (2025). Chemical characterization of weathered wood in historical buildings: Effects of altitude and façade orientation in Rize, Türkiye. BioResources, 20(2), 2912-2926.
【文献2】 P. Evans et al. (2016). Natural, accelerated, and simulated weathering of wood: A Review. BioResources, 11(4), 10116-10162.
公共建築における信頼の証:VATONプラスと関西万博
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のシンボルであった大屋根リングには、大谷塗料のVATONプラスが採用されました。 過酷な屋外環境下での木材保護性能と、大規模公共プロジェクトに求められる厳しい品質基準をクリアした信頼の実績が、皆様の設計実務をサポートします。
▶2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)大屋根リング事例
▶VATONプラスの詳細はこちら
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この記事を書いた人:販売促進グループ 増田
画力と丁寧な記述に定評のあるライター。業務ではWEB販促を担当。最近は約8年ぶりに名刺に載せる似顔絵を描き直した中で、己の加齢にショックを受けた。