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公共建築における木部塗装の設計実務:令和7年度版標準仕様書の構造と特記仕様の策定ポイント

公共建築における木部塗装の設計実務:令和7年度版標準仕様書の構造と特記仕様の策定ポイント
公共建築における木材利用の促進は、脱炭素社会の実現やウッドチェンジの推進といった国策として、2025年現在、かつてないほどの盛り上がりを見せています。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のシンボルである大屋根リングの事例に象徴されるように、現代の建築設計では、木材の持つ意匠性を最大限に引き出しつつ、不特定多数が利用する施設に求められる高い耐久性と安全性をいかに担保するかが重要な課題です。
こうした背景から、公共建築における木部塗装の選定においては、最新の公共建築工事標準仕様書の体系を正しく理解することが不可欠となります。しかし、標準仕様書の文言のみでは解決できない現場実務上の判断や、個別のプロジェクトに応じた塗装仕様の調整、さらには特記による補足が必要なケースは少なくありません。本コラムでは、公共建築に携わる大手ゼネコンや設計事務所、設計コンサルの担当者が、確実な塗装仕様の策定に臨めるよう、木部塗装の全体像と実務の基礎となる構造を解説します。
公共建築工事標準仕様書の体系と適用区分
公共建築における塗装工事は、国土交通省大臣官房官庁営繕部が監修する公共建築工事標準仕様書に基づいて行われます。この仕様書は、工事の品質を一定以上に保つための最低基準を定めたものであり、設計図書に本仕様書によると記載することで、施工会社に対して法的な拘束力を持つ品質を要求できます。
まず設計担当者が確認すべきは、新築工事と改修工事で適用される仕様書が異なる点であり、2025年度からは令和7年度版が最新の基準となります。
新築工事:公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年度版
新築プロジェクトでは、18章「塗装工事」が適用されます。木部塗装に関連する主な略号として、ST(ピグメントステイン塗り)、CL(クリヤーラッカー塗り)、UC(ウレタン樹脂ワニス塗り)、WP(木材保護塗料塗り)などが定義されています。
参考:国土交通省:公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年度版
改修工事:公共建築改修標準仕様書(建築工事編)令和7年度版
既存施設の改修では、7章「塗装改修工事」が適用されます。改修工事では、旧塗膜の状態や下地調整(ケレン作業)の範囲が品質を大きく左右するため、新築時とは異なる下地調査の工程が重視されます。
参考:国土交通省:公共建築改修標準仕様書(建築工事編)令和7年度版
材料選定における公的規格適合の技術的根拠
公共建築の材料選定においては、単なる見た目の美しさだけでなく、公的な規格適合や試験データに基づく性能の裏付けが厳格に求められます。木部塗装に限らず、公共建築塗装全般においてJISやJASSが重視されるのは、公的資金が投じられるプロジェクトとして、製品の品質と耐久性に客観的な保証が必要だからです。
特に木部塗装は、下地となる木材の種類(針葉樹・広葉樹)や含水率、用途による摩耗頻度の違いなど、他の資材と比較しても変動要素(変数)が非常に多い領域です。このような自然素材特有の不確定要素を適切に管理し、設計者が意図した耐用年数や安全性を確実に実現するためには、メーカー独自の基準ではなく、第三者機関が認定した標準的な性能指標が不可欠となります。
JIS規格やJASS(建築工事標準仕様書・同解説)は、不特定多数の利用者が触れる公共空間において、最低限確保すべき耐候性や低汚染性、安全性のデッドラインを示す物差しとして機能します。したがって、設計担当者は製品カタログ等の一次情報を通じて、該当製品がJIS規格やJASS 18 M-307(木材保護塗料)等の公的基準に適合しているかを慎重に確認し、それに基づいた塗装仕様を策定することが、実務上の大原則となります。
主要な塗装仕様(ST・CL・UC・WP)の区分と製品選定
公共建築における木部塗装において、部位や目的に応じて選定される主要な4つの塗装仕様について、屋内・屋外の適用区分とともに整理します。特にCLやUCは屋内専用の塗装仕様であることを再確認し、設計意図に合致した製品を選定することが重要です。
以下の表は、大谷塗料の製品データに基づき、公共建築で多用される塗装仕様と該当製品をまとめたものです。
| 仕様略号 | 仕様名称 | 適用区分 | 主な用途・特性 | 該当製品の例 |
| ST | ピグメントステイン塗り | 屋内 | 木肌を活かす浸透型着色。 | VATON-FX / 水性VATON-FX |
| CL | クリヤーラッカー塗り | 屋内 | 天井・壁面等の非摩耗部位。速乾。 | セーフティーワルツ ラッカー型金剛システム |
| UC(2UC) | ウレタン樹脂ワニス塗り | 屋内 | 床・カウンター等の摩耗部位。 | UC:VATON-FXフロアー/ 2UC:セーフティーワルツ インテリアクラフトシリーズ |
| WP | 木材保護塗料塗り | 屋外 | 屋外木部専用。耐候性・防カビ・防腐・防虫。 | VATONプラス / ソワードステイン |
各製品の選定にあたっては、各プロジェクトの特記に従い、建築基準法に基づくF☆☆☆☆登録や、JASS規格等への適合状況をカタログにて必ずご確認ください。
なぜ公共建築の設計には特記が必要なのか
公共建築工事標準仕様書は、あくまで標準的な工程を定めたものです。しかし、実際のプロジェクトでは、標準仕様書の規定だけでは不十分なケースが多々あります。ここで重要になるのが特記による指定です。
例えば、近年の環境配慮や施工現場の低VOC化(揮発性有機化合物削減)の流れにより、公共建築の内装における木部塗装を水性化したい場合、標準仕様書の本文が溶剤系を前提としていることが多いため、特記として水性塗料の使用を明記しなければなりません。
また、床やカウンターなど、標準的なウレタン樹脂ワニス塗り以上の耐傷性や耐薬品性が求められる部位については、特記において「床専用仕様(VATON-FXフロアー等)」であることを指定する必要があります。 適切な製品選定を特記で補足しない場合、将来的な塗膜の摩耗や剥離を招き、メンテナンスコストの増大につながるリスクがあります。
さらに、CL(クリヤーラッカー塗り)やUC(ウレタン樹脂ワニス塗り)の塗装仕様で着色を行いたい場合も注意が必要です。最新の仕様書では、着色工程の適用は「特記がある場合」に限られているため、「UC(着色あり)」といった具合に、着色を伴う旨を明記する必要があります。設計担当者は、標準仕様書をベースにしつつ、現場の要求に応じた適切な塗装仕様を特記として記載することで、初めて意図した品質と美観を確保できるのです。

公共建築における木部塗装の今後の展望
木部塗装の実務は奥が深く、仕様選定一つで、将来的なメンテナンスサイクルや耐久性に大きな差が生じます。大谷塗料では、公共建築に関わる設計・監理担当者の皆様の実務的判断をサポートするため、以下のテーマについて今後のコラムで詳細に解説していく予定です。
- CL(クリヤーラッカー塗り)やUC(ウレタン樹脂ワニス塗り)など、個別塗装仕様の詳細な工程解説と活用事例
- 公共建築の部位別オススメ塗装仕様マトリクス:最適な判断基準の提示
- 令和7年度版改定の完全解説:各塗装仕様の変更点と実務への影響
- A種とB種のグレード差:コストと仕上がりの相関関係に関する考察
- JIS・JASS・F☆☆☆☆などの技術規格の定義と該当製品
- 耐候性、硬度、耐薬品性などの塗膜性能の代表的な例
- 色むら、艶ムラ、塗膜剥がれなど、木部塗装特有の問題への対処と予防策
- 屋内外を貫通するデザインや不燃木材塗装といった特殊な課題解決へのアプローチ
まとめ:公共建築の木材活用を支えるパートナーとして
公共建築における木部塗装は、建物の美観を決定づけるだけでなく、木材という貴重な資源を保護し、長寿命化させる重要な役割を担っています。適切な特記の策定は、設計担当者にとって高い専門性が問われる工程ですが、最新の標準仕様書の基本構造と大谷塗料の長年の知見を組み合わせることで、より確実な設計が可能になります。
大谷塗料は、30年以上の公共建築への採用実績を誇るVATONシリーズをはじめ、最新の公共プロジェクトの要求に応える製品展開を行っています。特記の記載内容や、製品選定、規格適合に関するご不明点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
公共建築における信頼の証:VATONプラスと関西万博
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のシンボルである大屋根リングには、大谷塗料のVATONプラスが採用されています。 過酷な屋外環境下での木材保護性能と、大規模公共プロジェクトに求められる厳しい品質基準をクリアした信頼の実績が、皆様の設計実務をサポートします。
具体的な製品選定や、公共建築工事標準仕様書に基づく特記の作成に関するご相談、JASS適合証明書の発行依頼などは、お問い合わせフォームより承っております。
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この記事を書いた人:販売促進グループ 増田
画力と丁寧な記述に定評のあるライター。業務ではWEB販促を担当。最近は約8年ぶりに名刺に載せる似顔絵を描き直した中で、己の加齢にショックを受けた。