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公共建築工事標準仕様書の令和7年改定を完全解説:木部塗装設計における違いと実務のポイント

近年、公共建築における木材利用の促進は、脱炭素社会の実現に向けたウッドチェンジの推進などにより、建築設計の最前線で議論されるテーマとなっています。設計事務所やゼネコンの担当者にとって、最新版の公共建築工事標準仕様書(以下、標準仕様書)の改定内容を正確に把握することは、意図した品質を確保する上で非常に重要です。
本コラムでは、前々回の改定にあたる平成31年版から最新の令和7年版に至るまでの木部塗装に関する具体的な変更点と、実務担当者が注意すべき違いについて解説します。
ステイン塗りの名称変更と「拭き取り」工程の削除
木部塗装において多用される「オイルステイン塗り」は、令和4年の改定で名称および工程内容が整理されました。
1. 名称の変更:OSからST(ピグメントステイン塗り)へ
平成31年版までは「オイルステイン塗り(OS)」と呼ばれていましたが、令和4年度版より「ピグメントステイン塗り(ST)」へと名称が変更されました。これは、染料系ではなく顔料(ピグメント)を用いた浸透型着色剤であることをより明確化したものです。
2. 「拭き取り」工程が標準から消えた
実務上、最も注意が必要なのが、標準の工程表から「拭き取り」という文言が削除された点です。

- 平成31年版:工程に「オイルステイン塗り及び拭き取り」と明記。
- 令和4年・令和7年版:工程は「ピグメントステイン塗り」のみとなり、「拭き取り」の記述が削除。
木目を活かしたムラのない美しい仕上がりを得るためには、現在でも拭き取り工程は技術的に推奨されます。実際、弊社の「VATON-FX」は標準仕様に「拭き取り」工程を記載しています。とはいえ、この点は採用製品によっても違いがありますので、設計者は製品カタログを確認した上で、必要に応じて特記で拭き取りの実施を補足することが推奨されます。
透明塗膜工程(CL・UC)における「着色」の誤認リスク
クリヤーラッカー塗り(CL)やウレタン樹脂ワニス塗り(UC)といった透明塗膜仕様において、令和4年度および令和7年度版での記述の変更が、誤解を生むことがあります。
「原則として着色を行う仕様」という誤解
標準仕様書の体系では、依然としてCLやUCは無着色の透明仕上げが標準です。

これらに色を付ける場合は、「着色を行う場合は特記による」という規定に従い、別途「着色:VATON-FX相当品」等の着色工程に関わる特記を設ける必要があります。単に「CL」や「UC」と指定するだけでは、意図に反して無着色で施工されるリスクがあるため、特記による明確な指示が欠かせません。
WP仕様の適用範囲:現在は「屋外専用」の仕様
屋外木部の保護に用いられる「木材保護塗料塗り(WP)」についても、適用部位に関する認識が必要です。

現在の公共建築工事標準仕様書において、WPはJASS18M307規格が定める屋外専用の塗装仕様として定義されています。
WP塗料には屋外での耐久性を確保するための薬剤(防腐・防虫・防カビ剤等)が含まれており、屋内での使用は安全性や臭気の観点から適切ではありません。内装の木部保護には、必ず屋内用のSTやUC、CLの中から部位に適したものを選択するようにしてください。
まとめ:改定を踏まえた実務上のチェックポイント
平成31年版から令和7年版にかけての違いを整理すると、設計担当者が設計図書(特記仕様書)を策定する際の注意点は以下の通りです。
WPの適用部位:WP仕様を屋内に指定していないか。
略号の更新:図面上の表記を「OS」から最新の「ST(ピグメントステイン塗り)」へ修正しているか。
拭き取りの指示:STにおいて「拭き取り」を特記に加えているか。(採用製品のカタログにおいて拭き取りが推奨されている場合)
着色有無の明記:CLやUCで着色仕上げを望む場合、着色を行う旨を特記で指定しているか。
公共建築における信頼の証:VATONプラスと関西万博
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のシンボルであった大屋根リングには、大谷塗料のVATONプラスが採用されました。 過酷な屋外環境下での木材保護性能と、大規模公共プロジェクトに求められる厳しい品質基準をクリアした信頼の実績が、皆様の設計実務をサポートします。
具体的な製品選定や、公共建築工事標準仕様書に基づく特記の作成に関するご相談、JASS適合証明書の発行依頼などは、お問い合わせフォームより承っております。
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この記事を書いた人:販売促進グループ 増田
画力と丁寧な記述に定評のあるライター。業務ではWEB販促を担当。最近は約8年ぶりに名刺に載せる似顔絵を描き直した中で、己の加齢にショックを受けた。