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部位別オススメ仕様マトリクス:公共建築における適切な塗装仕様の選定ガイド

2025年現在、脱炭素社会の実現に向けた木材利用の促進は、建築設計における最重要テーマの一つとなっています。不特定多数が利用する施設においては、部位ごとに摩耗頻度や環境負荷が劇的に異なるため、適切な塗装仕様選定することが、建物の長寿命化と美観を損なうリスクを回避する上で極めて重要です。

本コラムでは、設計実務5年程度の担当者が現場で直面する課題を整理し、部位別のおすすめ仕様と製品をマトリクス形式でまとめました。標準仕様書の内容を実務に即して補足するための、論理的な選定ポイントを解説します。


部位別オススメ塗装仕様マトリクス

公共建築工事標準仕様書の略号順序(CL、UC、ST、WP)に基づき、塗装部位ごとの推奨仕様を整理しました。

略号仕様名称塗装部位(例)求められる性能該当製品の例(製品カタログPDFリンク)
CLクリヤーラッカー塗り屋内:壁面・天井艶出し・艶消しによる意匠性セーフティーワルツ ラッカー型クリヤー金剛
UCウレタン樹脂ワニス塗り屋内:建具・什器・床傷や汚れからの保護VATON-FXトップクリヤー / VATON-FXフロアー
(2UC)2液形ウレタン樹脂ワニス塗り屋内:建具・什器・床傷や汚れからの保護・短納期セーフティーワルツ インテリアクラフトシリーズ
STピグメントステイン塗り屋内:壁面・天井着色による意匠性VATON-FX / 水性VATON-FX
WP木材保護塗料塗り屋外:外壁・ウッドデッキ・軒天耐候性・防腐・防カビ・防虫VATONプラス / ソワードステイン

実務における製品選定の具体的判断基準

現場の要求性能や環境条件に基づき、最適な塗装仕様選定するための指針を提示します。

1. 屋内ステイン塗りの選定:VATON-FX vs 水性VATON-FX

屋内木部塗装のST仕様において、溶剤系と水性系の使い分けは環境配慮の観点から重要な判断となります。

  • VATON-FX(溶剤系):低臭塗料であり、ステイン塗り特有の深みのある色合いが特徴です。
  • 水性VATON-FX:非危険物であり、さらに低臭性を高めた仕様です。改修工事や施工直後から供用開始される公共建築など、極めて高い環境配慮が必要な現場での選定おすすめです。

2. 屋内クリヤー塗りの使い分け:VATON-FXトップクリヤー vs VATON-FXフロアー

ウレタン樹脂ワニス塗り(UC)では、塗膜の厚みの違いを考慮した製品の使い分けが必要です。

  • VATON-FXトップクリヤー:壁面や建具など、標準的な保護性能が求められる垂直面等の部位に適しています。
  • VATON-FXフロアー:塗膜が厚くつく特徴があり、比較的摩耗に強い性質を持っています。 床面や階段、カウンターなどの水平面への選定に適しており、公共施設のハードな使用環境に耐えうる塗装仕様を構築できます。

3. 屋外塗装の選定:VATONプラス vs ソワードステイン

屋外木部(WP仕様)は、新築か改修かという現場状況が選定の決め手となります。

  • VATONプラス:植物油ベースの自然系塗料で、塗り伸びが良くムラになりにくい作業性が特徴です。
  • ソワードステイン:木材表面に薄い膜を形成する「半造膜型」であり、着色濃度が高いため、下地の汚れやシミを隠したい塗り替え案件の選定に最適です。 無機有機ハイブリッド樹脂による高い耐候性も備えています。

注目すべき要注意ケース:不燃木材が基材となる場合

近年の公共建築では内装制限への対応として、不燃薬剤を注入した不燃木材が多用されていますが、現場塗装には慎重な検討が必要です。

  1. 不燃認定失効のリスク:法律上、現場塗装された部材で不燃認定を受けるための試験を個別に行うことは困難であり、認定が外れるリスクを伴います。
  2. 薬剤溶脱と硬化不良:特に水性塗料は不燃薬剤の溶脱を促進させやすく、塗料自体の硬化反応にも異常が出ることが多いため、不燃木材への使用はおすすめしません。
  3. 推奨される対策:不燃木材への施工が必要な場合は、基材供給業者に相談の上、適切な工程管理を検討してください。

公共建築における特記仕様書への記載例

意図した品質を確保するためには、標準仕様書の略号に性能を補足する特記の記載が有効です。

特記記載例(屋内床面の場合)

適用部位:屋内階段および床面

塗装仕様:公共建築工事標準仕様書(建築工事編)「ウレタン樹脂ワニス塗り(UC)」を適用する。

備考:上塗り塗料は、床専用の性能を有する製品(大谷塗料:VATON-FXフロアー相当品)を使用すること。

このように「●●相当品」という表現を用いることで、公共建築の公平性を保ちつつ、適切な性能を持つ塗料を現場へ誘導することが可能になります。


公共建築における信頼の証:VATONプラスと関西万博

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のシンボルであった大屋根リングには、大谷塗料のVATONプラスが採用されました。 過酷な屋外環境下での木材保護性能と、大規模公共プロジェクトに求められる厳しい品質基準をクリアした信頼の実績が、皆様の設計実務をサポートします。

具体的な製品選定や、公共建築工事標準仕様書に基づく特記の作成に関するご相談、JASS適合証明書の発行依頼などは、お問い合わせフォームより承っております。

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この記事を書いた人:販売促進グループ 増田
画力と丁寧な記述に定評のあるライター。業務ではWEB販促を担当。最近は約8年ぶりに名刺に載せる似顔絵を描き直した中で、己の加齢にショックを受けた。