事例・コラム

Column

特記仕様の重要性と書き方:標準仕様を実務に合わせてカスタマイズする技術~標準仕様書の規定を現場の要求(水性化等)に合わせて上書きするための、特記の役割と記載のコツ~

公共建築物の設計実務において「公共建築工事標準仕様書」(以下、標準仕様書)を基準とすることは、品質を一定水準以上に保つための不可欠なプロセスです。しかし、標準仕様書は広範な工事に対応するための汎用的な基準であり、個別のプロジェクトで求められる最新の環境配慮(水性化)や意匠性に完全に対応するためには、設計者による適切なカスタマイズが必要となります。

特に、標準仕様書の規定を現場の要件に合わせて「上書き」する特記の活用は、設計品質を左右する極めて重要なスキルです。本コラムでは、木部塗装における水性化および実務的な着色工程に焦点を当て、特記の書き方と実務上のポイントを詳述します。


1. 知っておくべき「デフォルトはB種」という実務の落とし穴

設計図書において、塗装の品質を左右する大きな要因が「種別(A種・B種)」の選択です。ここで設計担当者が最も注意すべきは、標準仕様書上の原則です。

特記がない限り「B種」が採用される根拠

公共建築工事標準仕様書(建築工事編)の各節(クリヤーラッカー塗り、ウレタンワニス塗り等)の冒頭には、以下の趣旨の文言が記載されています。

「種別は特記による。特記がなければ、B種とする。」

『公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版』第18章5節「クリヤラッカー塗り」 より引用

これは塗装の回数や工程数だけでなく、前段階の「素地ごしらえ(素地調整)」についても同様です。つまり、設計者が意図的に特記で「A種」と指定しない限り、自動的に工程の簡略化されたB種(簡易仕様)が現場で採用されることになります。

設計図書における情報の優先順位は、一般的に「質問回答書 > 特記仕様書 > 設計図 > 標準仕様書」です。意匠性や耐久性を重視する部位においてA種を確保するためには、特記による「上書き」が法的な品質担保の生命線となります。


2. 塗装仕様を「水性化」したい時の技術的根拠とJIS・JASS規格

室内環境の安全性向上やVOC削減、あるいは施工中の臭気対策のために水性塗料を採用する場合、なぜわざわざ特記で指定しなければならないのでしょうか。その理由は、標準仕様書が準拠している規格の内容にあります。

2-1. CLおよびUCにおける規格の制約

公共建築塗装仕様の代表的な透明仕上げであるCL(クリヤーラッカー塗り)やUC(ウレタンワニス塗り)では、水性化の際に特記による性能の読み替えが必要となります。

  • CL(クリヤーラッカー塗り):

標準仕様書では、JIS K 5531およびJIS K 5533に準拠することが規定されています。これらのJIS規格は溶剤型塗料を対象としており、規格内に水性型の区分は存在しません。そのため、水性塗料を採用する場合は、特記において「JIS K 5531およびJIS K 5533と同等以上の性能を有する水性材料を使用する」といった明記が必要となります。

  • UC(ウレタンワニス塗り):

UCの基準となるのは、日本建築学会が定める材料規格「JASS 18 M-301(1液形油変性ポリウレタンワニス)」または「JASS 18 M-502(2液形ポリウレタンワニス)」です。これらも溶剤型の物性を基準としています。室内での水性仕様を選択する場合、特記によってこれらJASS規格の溶剤仕様を上書きする必要があります。

2-2. STとWPにおける規格の柔軟性

一方で、ST(ピグメントステイン塗り)やWP(木材保護塗料塗り)については、JASS規格そのものが溶剤型・水性型の両方を許容しています。

  • ST(ピグメントステイン塗り):

材料規格「JASS 18 M-306」において、溶剤型か水性型かを固定する厳格な制約はありません。そのため、設計意図に合わせて特記で「水性」と記載するだけで、標準仕様の範囲内で自由に選定可能です。

  • WP(木材保護塗料塗り):

こちらも材料規格である「JASS 18 M-307」において、溶剤型と水性型の両方が含まれています。周囲への臭気影響を考慮して水性型を選択する場合も、規格適合品であれば標準仕様書の中で柔軟に指定が可能です。


3. 公共建築工事標準仕様書の各略号に対応する推奨水性塗料リスト

標準仕様書の各仕様を水性化する際、大谷塗料では以下の製品ラインアップを推奨しています。

仕様略号推奨製品名(水性仕様)規格対応・選定の考え方
CL水性VATON-FX サンディングシーラーNY水性VATON-FX トップクリヤーJIS K 5531/5533と同等以上の性能
UC水性VATON-FX トップクリヤー(床面は 水性VATON-FX フロアーNYJASS 18 M-301同等以上の性能
ST水性VATON-FXJASS 18 M-306 適合
WP水性バトンプラスJASS 18 M-307 適合

4. CL・UC仕様で着色を行いたい時の特記:OSCL・OSUCの推奨

木部塗装において、透明塗膜で仕上げるCLやUCに着色を施す際、標準仕様書に記載されている「目止め着色」の工程をそのまま適用することは、弊社としては推奨していません。

4-1. なぜ「目止め着色」ではなく「OSCL / OSUC」なのか

標準仕様書で定義されている目止め着色工程は、伝統的な木工塗装工法に基づいています。

しかし、公共建築塗装においては面積が大規模になることも珍しくなく、標準仕様を厳守した場合、目止め剤の拭き取り残しによる密着不良や色むら、重ね塗り時の着色剤の溶解による色ズレなどのリスクが考えられます。実際の現場において、仕上がり品質と作業効率を両立させるためには、従来から実務で広く使われているOSCL(オイルステイン + クリヤーラッカー)OSUC(オイルステイン + ウレタンワニス)の仕様が合理的です。

そのため弊社では、CLやUC仕様で着色を行う場合はOSCL/OSUC仕様を特記で指定することを推奨しています。

弊社OSCL仕様書より抜粋

4-2. その他特記の例

  1. ST仕様における拭き取り工程の指示:

ピグメントステインを用いてムラなく美しく仕上げるために、「着色剤(ST工程)の塗布後、乾燥前にウエス等で余分な塗料を拭き取り、色ムラを調整すること」という具体的な作業指示を特記に加えます。

  1. 同一メーカーによるシステム塗装の遵守:

着色剤と上塗り塗料などの層間密着性を担保するため、「着色剤と上塗り塗料は、密着不具合を避けるため同一メーカーの適合製品(例:水性VATON-FXシリーズ)を使用すること」と記載します。


5. まとめ:特記は設計者の「確かな指針」である

公共建築塗装仕様における特記は、単なる補足説明ではありません。それは「標準」をベースにしながら、デフォルトのB種をA種へ引き上げ、溶剤型を水性型へ転換し、実務に即したOSCL/OSUC仕様を選択するという、設計者の明確な意思表示です。

特記による性能の読み替えと適切な製品指定を行うことが、10年後、20年後も誇れる公共建築を実現するための鍵となります。

大谷塗料では、特記仕様書への具体的な記載文言の提案や、最新の規格に基づいた木部塗装水性システムの策定をサポートしております。設計実務における課題や製品選定について、ぜひお気軽にご相談ください。


公共建築における信頼の証:VATONプラスと関西万博

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のシンボルであった大屋根リングには、大谷塗料のVATONプラスが採用されました。 過酷な屋外環境下での木材保護性能と、大規模公共プロジェクトに求められる厳しい品質基準をクリアした信頼の実績が、皆様の設計実務をサポートします。

▶2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)大屋根リング事例
▶VATONプラスの詳細はこちら

具体的な製品選定や、公共建築工事標準仕様書に基づく特記の作成に関するご相談、JASS適合証明書の発行依頼などは、お問い合わせフォームより承っております。

また、コラムなどの更新情報やお得な情報をお届けするメールマガジンもございます。ぜひご登録をご検討ください。


この記事を書いた人:販売促進グループ 増田
画力と丁寧な記述に定評のあるライター。業務ではWEB販促を担当。最近は約8年ぶりに名刺に載せる似顔絵を描き直した中で、己の加齢にショックを受けた。