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試験データの読み方:耐候性試験(促進耐候性)の評価基準~【250時間=1年】の通説はなぜ生まれた? 試験データと実寿命の真実~

公共建築の外部改修や新築工事において、塗料選定の決定打となるのが「期待耐用年数」です。
メーカーカタログや塗装店の営業トークでは、「促進耐候性試験で2000時間をクリアしているので、10年は持ちます」といった説明がよくなされます。
この【〇時間=〇年】という換算は、設計者にとって非常に分かりやすい指標ですが、実は公的な規格で定められたものではありません。
本コラムでは、この「通説」がなぜ生まれ、広まったのかという背景と、試験データを正しく読み解くためのリスク管理について解説します。
目次
1. 促進耐候性試験の概要とメカニズム
促進耐候性試験とは、人工的な光源と散水装置を用いて、屋外で発生する劣化現象(変色・チョーキング・割れ・剥がれ)を短期間で再現する試験です。
主な試験光源の種類
試験結果を見る際は、どの「光源」を使ったデータかを確認することが重要です。
【キセノンアークランプ(JIS K 5600-7-7)】
現在の主流です。太陽光の波長分布(スペクトル)に極めて近く、特に紫外線領域の再現性が高いため、信頼性が高いとされています。JASS 18 M-307(木材保護塗料)の規格試験でも採用されています。
【サンシャインカーボンアーク(JIS K 5400 旧規格)】
日本国内で古くから使われてきた光源です。紫外線量が太陽光よりも強く、過酷な条件を作りやすいですが、実際の太陽光とは波長が異なるため、近年はキセノンへの移行が進んでいます。
2. 「試験時間」と「実年数」の相関関係
最もよくある質問が、「試験時間の〇〇時間は、実際には何年に相当するのか?」という点です。
業界では【促進250〜300時間 ≒ 実曝1年】という換算式が、あたかも公式のように扱われていますが、これには注意が必要です。
なぜ【250時間=1年】という目安が生まれたのか
この通説が定着した背景には、過去の特定の研究データや経験則が一般化(単純化)された経緯があると考えられます。
・特定の樹脂での成功事例(中部電力・パナソニック電工)
過去に行われた中部電力とパナソニック電工(現パナソニック)の共同研究において、特定の樹脂製品(EEA樹脂)における劣化速度を算出した際、「キセノンランプ試験(XWM)での劣化速度は屋外の約40倍である」という結果が報告されています。
これを計算すると【年間8760時間 ÷ 40倍 ≒ 219時間】となります。こうした具体的な成功事例のデータが、「約200〜250時間で1年分の劣化が進む」という分かりやすいルールとして業界全体に広まった可能性があります。
なぜ「一概にそう言えない」のか
しかし、学術的には「全材料共通の換算式」は存在しません。以下の理由から、安易な年数換算はリスクが高いとされています。
・加速倍率はバラバラである(土木研究センター)
土木研究センターの報告書によると、促進耐候性試験における劣化の加速倍率は、材料の種類や試験条件によって【数倍〜100倍】と極めて大きな幅があるとされています。
ある塗料では200時間で1年分劣化するかもしれませんが、別の塗料では500時間かかるかもしれず、一律の換算は危険です。
・木材はさらに複雑である(米国農務省 FPL)
特に木材保護塗料の場合、相手は「生き物(木材)」です。プラスチック板とは異なり、吸水による膨張収縮や、樹種による成分の違いが劣化に大きく影響します。
米国農務省 林産試験場(USDA FPL)の研究や関連論文でも、人工的な耐候性試験は、条件次第で自然劣化を【5倍〜20倍】程度加速させると言及されており、樹脂単体の試験(40倍など)と比較して、木材の加速倍率は低く見積もられる傾向があります。
したがって、試験データは「10年持つ保証」ではなく、「他社製品と比較してどちらが優秀か」を判断する【相対評価の指標】として捉えるのが正解です。
3. 「実曝試験」との決定的な違いと環境要因
促進試験の対極にあるのが、実際の屋外に試験片を並べて何年も放置する「屋外曝露試験(実曝試験)」です。実際の気象条件そのものであるためデータとしての信頼性は高いですが、参照する際には以下の点に注意が必要です。
どんな物件にも当てはまるデータではない
「実際の屋外」と一口に言っても、その環境は千差万別です。メーカーの実曝試験データ(多くは宮古島や千葉県銚子市など)が、そのまま計画物件の耐候性を保証するわけではありません。
・地域の気候特性
沖縄の塩害・強烈な紫外線と、北海道の凍結融解・積雪では、劣化のメカニズムが全く異なります。
・立地条件
日当たりの良い南面と、湿気が滞留しやすい北面や樹木周辺では、カビや腐朽のリスクが大きく変わります。
したがって、試験データはあくまで参考値とし、実際のメンテナンス計画においては、立地や部位ごとの「環境係数」を考慮した安全率を見込むことが重要です。
4. 耐候性を高めるための技術的アプローチと推奨製品
設計仕様において、塗料の耐候性を最大限に引き出すためには、製品選びだけでなく「成分」の理解が必要です。
① 無機・有機ハイブリッド技術の活用
鮮やかな有機顔料や一般的な樹脂は、紫外線によって結合が切断されやすく、早期の色あせやチョーキングを招きます。
これに対し、ガラスや石と同じ「無機成分(シロキサン結合など)」を樹脂骨格に組み込んだ「無機・有機ハイブリッド樹脂」は、紫外線エネルギーよりも結合エネルギーが高いため、劣化が極めて起こりにくい特性があります。
② 大谷塗料の推奨製品:ソワードステイン
公共建築の外壁やルーバーなど、特に長期の耐候性が求められる部位において、大谷塗料では以下の製品を推奨しています。
推奨製品:ソワードステイン(水性半造膜木材保護塗料)
・業界初のハイブリッド技術
木材保護塗料業界で初めて「無機×有機ハイブリッド樹脂」を採用。柔軟な有機成分が無機成分を包み込む構造により、木の伸縮に追従しながら強力な耐候性を発揮します。
・圧倒的な色持ち
促進耐候性試験(1000時間)において、一般的な浸透型WP(水性バトンプラス等)と比較して、変退色の度合い(⊿E値)が1.5〜3倍程度低いという結果が出ています。
・セルフクリーニング機能
無機成分の特徴である帯電防止効果により、汚れの付着を抑制し、雨水で汚れを洗い流す機能を持っています。
まとめ:データと技術で選ぶ「長持ちする公共建築」
促進耐候性試験のデータは、製品間の性能差を客観的に比較するための有効な「ものさし」です。
「250時間=1年」という通説は一つの目安に過ぎず、実際には材料や環境によって大きく変動することを理解した上で、余裕を持ったメンテナンス計画を立てることが重要です。
確かな科学的根拠(ハイブリッド技術)に基づいたソワードステインなどの高耐候性塗料を選定し、持続可能な公共建築を実現してください。
参考文献
BioResources (citing USDA FPL related studies): Structural changes in wood under artificial UV light irradiation
中部電力・パナソニック電工:樹脂製品の促進耐候性試験における加速倍率の算出
土木研究センター:合成樹脂被覆鉄線の耐候性試験 -促進時間の検討-
公共建築における信頼の証:VATONプラスと関西万博
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この記事を書いた人:販売促進グループ 増田
画力と丁寧な記述に定評のあるライター。業務ではWEB販促を担当。最近は約8年ぶりに名刺に載せる似顔絵を描き直した中で、己の加齢にショックを受けた。