事例・コラム
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公共建築塗装における木部仕上げの一つにST(ピグメントステイン塗り)があります。設計実務において、図面に「ST」と記載するケースは少なくないですが、その仕様が過去20年でどのように変化し、なぜ特定の工法が推奨されるのかを深く理解することは、竣工後の品質トラブルを未然に防ぐために極めて重要です。
本コラムでは、仕様の変遷、拭き取り工程の技術的必要性、そして現場実務に即した製品選定と特記仕様書の書き方について解説します。
目次
1. OS➡ST仕様の背景
公共建築塗装における着色仕様は、かつての「OS(オイルステイン)」から現在の「ST(ピグメントステイン塗り)」へと呼称が整理されてきました。これに伴い、該当する塗料の規格が「油性のみ」から「油性・水性問わず」に変わりました。この変化の背景には、単なる名称の整理だけでなく、溶剤型中心から水性化への塗装市場の変化への適応が存在すると考えられます。
塗装市場の水性化シフトの背景
- 環境負荷低減(VOC削減目標):
「公共建築工事標準仕様書」およびJASS 18の改定においては、政府のグリーン購入法や建築物における環境負荷低減方針に基づき、揮発性有機化合物(VOC)の放出抑制が命題となっています。
- 防火・安全性の確保:
溶剤型塗料は引火性が高く、特に大規模な公共建築物においては、施工中の火災リスク低減が厳しく求められます。水性塗料の採用は、消防法上の危険物管理の簡略化と安全性の向上に直結します。
- 作業環境と臭気対策:
学校や病院、公共施設などの現場では、施工中および竣工後の溶剤臭が大きな課題となります。特に改修工事(ストック活用)が増加する現在、低臭気である水性仕様の選定は、設計判断における必須要件となりつつあります。
2. なぜ「拭き取り」が必要なのか?技術的論拠とメリット
公共建築塗装の標準仕様書では、近年の改定で拭き取りの記述が省略される傾向にあります。しかし、大谷塗料では実務上、拭き取り工程を特記に盛り込むことを推奨しています。これには、塗料の乾燥メカニズムに基づいた重要な理由があります。
木目を際立たせる「意匠性」のコントロール
木材は不均一な素材であり、早材と晩材で塗料の吸い込みが異なります。
拭き取りを行わない場合
木材表面に顔料が厚く残り、木目が塗り潰された「ベタ塗り」に近い状態になります。また、吸い込みムラがそのまま色の濃淡として現れます。
拭き取りを行う場合
導管(木目)の中にだけ適度な顔料が残り、表面の余分な着色剤が取り除かれることで、木材本来の立体感が強調されます 。
上塗り塗料(CL・UC)との密着性確保
浸透型着色剤であるSTを「塗りっぱなし」にした場合、以下の技術的トラブルが発生するリスクが高まります。
乾燥不良と「中膿(なかうみ)」の発生
浸透型着色剤は、ある程度木材に浸透することが前提として設計されたものがほとんどです。拭き取りを行わない場合、表面に過剰な塗料(顔料と樹脂)が滞留する可能性が高まります。この状態でCL(クリヤーラッカー塗り)やUC(ウレタン樹脂ワニス塗り)などの上塗りを行うと、上塗り塗膜が先に硬化して「蓋」をしてしまいます。
結果として、下層のSTに含まれる水分や溶剤が抜けきらず、内部が未乾燥のまま残る「中膿」状態となる危険があります。
層間密着不良と早期剥離
中膿状態になった塗膜は、本来の硬度を発揮できません。また、未硬化の塗膜層が剥離剤のような役割を果たし、上に塗った塗膜との密着を阻害します。
屋内環境の特徴
屋内は屋外に比べて風通しが悪く、湿気がこもりやすい傾向にあります。このような環境下では、塗料の乾燥遅延のリスクがより顕著になり、のちの剥離トラブルの主因となります。
以上から拭き取りは、余分な塗料を除去して「適切な乾燥厚」に整えることで、より木材らしい仕上がりを実現しつつ、上塗り塗装時のトラブルリスク低減の役割を果たすのです。
3. 油性と水性の使い分け:現場条件と要求性能による選定基準
設計実務において、油性(溶剤型)のSTと、水性のSTをどのように使い分けるべきか、その基準を整理します。
油性(溶剤型)STを選択する場合
製品例:VATON-FX
深みのある意匠性
溶剤の特性上、木材の導管深くまで顔料が浸透しやすく、木目をより強調した仕上がりが得られます。
大規模・高湿環境
水性に比べて乾燥が緩やかであるため、広大な面積を塗装する場合でも、継ぎ目が目立ちにくく作業性が安定します。
水性STを選択する場合
製品例:水性VATON-FX
厳しい環境・安全基準
学校、病院、福祉施設など、子供や高齢者が利用する施設において、臭気やVOCの影響を最小限に抑えたい場合に最適です 。
火災リスクの低減
消防法上の危険物に該当しない製品が多く、施工現場の安全性確保を優先する場合に選択されます。
短工期要求
環境によりますが、基本的に油性STよりも乾燥時間が短い傾向にあるため、短い納期での塗装が求められる現場に推奨されます 。
4. 公共建築塗装に最適化された「水性VATON-FX」の特性
設計者がST仕様を水性化しつつ、品質を担保するために選定すべき材料が 水性VATON-FX です。本製品は、単なる着色剤としての枠を超えた、公共建築塗装に相応しい付加価値を備えています。
安全性と意匠性の両立
SIAA適合(抗菌・抗ウイルス性能)
不特定多数が利用する公共施設において重要視される、抗菌・抗ウイルスに関するSIAA認証を取得しています。衛生管理が求められる部位への指定に最適です。
おもちゃに対する食品衛生法に適合
食品衛生法における「器具及び容器包装の規格試験(おもちゃの製造基準)」に適合しています。保育園や学校の什器など、子供が触れる部位にも安心して指定できる安全性を備えています。
抜群の作業性と拭き取り適性
水性塗料でありながら乾燥速度が緻密にコントロールされており、ハケ目が残りにくく、拭き取りによる色の調整が容易です。大規模な壁面や天井においても、均一で木目を活かした美しい仕上がりを可能にします。
まとめ:特記による「拭き取り」の指定が品質を救う
公共建築塗装におけるST仕様の成否は、適切な材料選定と、それ以上に「拭き取り」というひと手間を現場に徹底させる設計者の特記にかかっています。
過去20年の変遷を経て確立された水性塗装技術を正しく運用し、中膿や剥離といったリスクを技術的知見に基づいて排除することが、長く愛される公共建築を作るための第一歩です。大谷塗料は、今後も実務に即した最新の技術情報と製品提供を通じて、設計事務所・ゼネコンの皆様の設計監理をサポートしてまいります。
公共建築における信頼の証:VATONプラスと関西万博
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のシンボルであった大屋根リングには、大谷塗料のVATONプラスが採用されました。 過酷な屋外環境下での木材保護性能と、大規模公共プロジェクトに求められる厳しい品質基準をクリアした信頼の実績が、皆様の設計実務をサポートします。
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この記事を書いた人:販売促進グループ 増田
画力と丁寧な記述に定評のあるライター。業務ではWEB販促を担当。最近は約8年ぶりに名刺に載せる似顔絵を描き直した中で、己の加齢にショックを受けた。