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屋内塗装の傷対策:公共施設で求められる「強さ」の正体

「公共建築物等木材利用促進法」の施行以降、学校や庁舎などの公共施設では、地域産材であるスギやヒノキ(針葉樹)が積極的に利用されるようになりました。
地元の木を使うことは環境や教育面で素晴らしいことですが、設計・維持管理の現場では、広葉樹(ナラやタモ)に比べて圧倒的に柔らかい「針葉樹の傷つきやすさ」が悩みの種となっています。
仕様書で「鉛筆硬度2H」などの硬さを指定しても、下地が柔らかければ傷は防げません。
本コラムでは、公共塗装の仕様の枠内で、傷そのものを防ぐ、あるいは「ついてしまった傷を目立たせない」ための現実的な技術について解説します。
目次
1. 鉛筆硬度の誤解と「針葉樹」のジレンマ
なぜ、硬い塗料を選んでも傷ついてしまうのでしょうか。
硬すぎる塗膜は「割れ」を招く
スギなどの針葉樹は、爪で押せば凹むほど柔らかい素材です。この上に、ガラスのようにカチカチに固まる高硬度塗料を塗ると、物が当たって木材が凹んだ際、塗膜が変形についていけずパリンと割れてしまいます(卵の殻現象)。
そのため、木部塗装においては、木材の動きに追従できる【柔軟性】が必要不可欠です。
しかし、柔軟性を持たせた塗料では「割れ」は防ぎやすくなりますが、衝撃による「凹み」までを防ぐことはできません。
このジレンマを解消するためには、「傷をつけない」ことだけでなく、「傷(凹み)が入っても目立たないようにする」という視点の転換が重要です。
2. 視点の転換:「白い傷跡」を作らない塗装システム
カウンターやテーブルに入った打ち傷が「白く」目立ってしまった経験はないでしょうか?
実は、この「白さ」の原因の多くは、塗料に含まれる成分にあります。
傷が白くなる原因:「研磨剤」の乱反射
一般的なウレタン塗装の中塗り(サンディングシーラー)には、研磨性を良くするために白い粉体状の「研磨剤」が含まれています。
塗膜に衝撃が加わり、内部で割れや剥離が起きると、この研磨剤に光が乱反射して、傷が白く浮き上がって見えてしまうのです。
これを防ぐためには、以下の2つのアプローチが有効です。
方法① 下地の色を「ナチュラル系」にする
傷は下地の色とのコントラストで目立ちます。
「ダークブラウン」などの濃色は、白くなった傷との色差が大きく、非常に目立ちます。一方、木本来の色に近い「ナチュラル系」であれば、傷が入っても目立ちにくくなります。
方法② 「研磨剤」が入っていない塗料のみで仕上げる
意匠上どうしても濃色にしたい場合や、より傷を目立たせたくない場合は、「そもそも研磨剤が入っていない塗料(トップコート)だけで仕上げる」という仕様があります。
通常の中塗り(サンディングシーラー)を使わず、上塗り用クリヤー(トップコート)を下塗りから仕上げまで積層する工法です。
- 使用塗料:
- 2UC(カウンター等):インテリアクラフト ハイクリヤー
- UC(一般造作等):VATON-FXフロアー、水性VATON-FXフロアーNY
- JASS規格から見る「正当性」
実はこの仕様は、公共建築工事標準仕様書の規格(JASS)に最も忠実な仕様と言えます。 標準仕様書における「ウレタン樹脂ワニス(UC)」の材料規格である【JASS 18 M-301】は、厳密には「研磨剤や艶消し剤などを含まない透明なワニス」を指します。 一般的によく使われる「サンディングシーラー」は、作業性を良くするために研磨剤を添加した別製品であり、厳密な規格解釈としては「艶あり(艶消し剤を含まない)トップコート(ワニス)のみで塗り重ねる」工法こそが、本来のUC仕様の姿なのです。
- メリット: 塗膜内に白い粉(研磨剤)が存在しないため、もし打ち傷が入っても白くなりづらく、透明な凹みとして残るだけなので、美観を大きく損ないません。
- 注意点:
- 研磨が大変:トップコートは硬く、研磨剤が入っていないため、サンディングシーラーと比べるとペーパーがかかりにくく労力を要します。
- 乾燥と工程:一般的にサンディングシーラーより乾燥が遅い傾向があり、工程管理に注意が必要です。
3. 【土足フローリング】砂埃による「摩耗」への対策
公共施設の床、特に「土足エリア」の木質フローリングは、最も過酷な環境です。
砂埃は「紙やすり」と同じ
土足で歩行するということは、靴底についた砂や土で床を毎日こすっている状態です。これは「床に紙やすりをかけている」のと似た状態です。
この状況下では、以下のトラブルが避けられません。
- 摩耗:塗膜が削れ、艶がなくなったり、滑りやすくなったりする。
- 破損:ハイヒール等の強い負荷で塗膜が割れ、そこから雨水などが侵入して黒ずみや剥がれ等の劣化が加速する。
対策と塗料選定の考え方
① 物理的対策(最重要)
出入り口に十分な長さの「砂取りマット」を設置し、館内への砂の持ち込みを抑制すること。
② 塗料による対策:2つの方向性
用途やメンテナンス体制に合わせて、塗料を選び分けます。
- A案:とにかく摩耗に耐える(塗膜仕様)
高耐久な床用ウレタン塗料でガッチリ守る方法です。- 例①:とにかく耐摩耗性を重視するなら「セーフティーワルツ ネオデラック2020FF」
- 例②:飲食店など、低臭性が求められるなら「ソワード2液フロアーT」
※いずれにせよ塗膜がなくなる前に「リコート(上塗り)」するメンテナンス計画が必須です。
- B案:剥がれのリスクをなくす(浸透仕様)
「塗膜の割れや剥がれが見苦しいのは困る」という場合は、あえて塗膜を作らない浸透型塗料を選ぶのも一つの手です。- 例:VATON-FX
- メリット:塗膜がないため「剥がれ」や「割れ」が起きない。塗り替え時に旧塗膜を削り落とす必要がなく、メンテナンスが容易。
- デメリット:塗膜による保護がないため、傷や汚れはつきやすくなる。
※工場塗装製品について
なお、建材メーカーが販売している「土足用フローリング(工場塗装品)」は、厳格な管理下で高耐久なUV塗装などが施されており、現場塗装とは条件が異なります。現場塗装で土足仕様を組む際は、上記の注意点を施主様へ説明し、納得いただいた上で仕様を決定することをお勧めします。
まとめ:傷との付き合い方を設計する
公共建築、特に針葉樹を使う空間では「傷をゼロにする」ことは不可能です。
- カウンター:傷が白く目立たない「艶ありトップクリヤーのみの仕様」を検討する。
- 土足床:マットで砂を防ぎつつ、メンテナンス性を考慮して「高耐久塗膜」か「浸透仕上げ」かを選択する。
傷もまた木の味わいとして許容できる範囲に留める工夫。それが木造公共建築を長く愛される場所に育てる秘訣です。
公共建築における信頼の証:VATONプラスと関西万博
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この記事を書いた人:販売促進グループ 増田
画力と丁寧な記述に定評のあるライター。業務ではWEB販促を担当。最近は約8年ぶりに名刺に載せる似顔絵を描き直した中で、己の加齢にショックを受けた。